小さな命に輝きを感じる瞬間を「月刊ムシミル」

タガメ

タガメ

写真ギャラリー

日本最大の水生カメムシ

水中に体を沈め、獲物が通るのをじっと待ちます

力の強そうな脚

水中で獲物を待ち構えますが、お尻を水面に出して呼吸しています

水中で木につかまっているタガメ

タガメの正面

コオイムシ科まとめ 子負虫図鑑

タガメってどんな虫?

タガメに憧れた幼少時代

私の実家の家の前は田んぼでした。水路から田んぼに水が流れ込むポイントには色んな生き物がいて、その場所を探るのがちょっと楽しかった思い出があります。ある時、大きな水生昆虫を見つけて、やった!すごい!でかい!タガメ見つけた!って、嬉しくてバケツに入れて持って帰ったのですが、肉食で世話が大変だということで観察したあとに逃がしてあげました。
それが実はタイコウチと勘違いしていたのは秘密の話です。

コオイムシ科

カメムシ目の中に「コオイムシ科」があります。タガメはコオイムシ科の昆虫です。
コオイムシというのは水性カメムシの中でも、卵を背中に乗せて守る習性などがある昆虫です。
タガメは背中に卵を乗せませんが、オスが卵を守る習性が知られています。

タガメの写真
タガメ

タガメの生態

水生昆虫のタガメ(水性カメムシの仲間)

タガメは水生昆虫で水場を利用して生活しているのですが、その多くは里山などの人の手が入った豊かな環境でよく見られます。田んぼや用水路などです。そして、水中を泳ぐために真ん中の脚(あし)と後ろ脚は扁平な形で泳ぎやすくなっています。
水中や水場で生活しているだけで、生きるためには空気が必要なんですね。そのために、お尻の呼吸感を使って空気を取り込みます。水中にいるときでもお尻は水上に突き出しているので、シュノーケルみたいな役割をしています。

タガメの写真
お尻は水面の方に向いています。

擬態している形と色

タガメは茶色の体をしていますが、これは「枯れ葉」に擬態していると思われます!
ですから、タガメは私たちが近づいてもじっとしています。枯れ葉のふりをして動かない方が見つかりにくいと思っているのではないでしょうか?
さすがに触ったり刺激したら水の中に逃げますけどね。

タガメの一生

成虫は5~7月頃にオスとメスが出会って産卵します。その卵はオスが守りながら1~2周間ほどで幼虫が孵化してきます。その後は約2ヶ月かけ、5回の脱皮を繰り返して大人の成虫になっていきます。

成虫で冬を超す

タガメは成虫で越冬します。基本的には陸に上がって、落ち葉の下や岩陰でじっとしていることが多いようです。

寿命

冬を越すことのできるタガメは昆虫の中でも寿命の長い種類です。大抵の個体は2年程度のようですが、長いものだと2回目の冬を越して3年ほど生きることもあるようです。

飛べる、そして光に集まる走光性

水中生活を得意とするタガメですが、実は飛べます!
成熟すると、パートナーを探すために飛んで行くことができるんですね。

しかし、タガメには走光性と言って光に向かって飛んでいく習性があるので、強い光があるとそっちの方向に行ってしまいます。ですから、池もないのに道路などの照明に向かって飛んで行ってしまうこともあるのです。

野球のナイターが行われている時なども、球場の周りでタガメを見かけることがあるようです。球場の光はかなり強いですから遠くからでもやってきそうです。

形態や特徴

大きな水生昆虫

水生昆虫の中では大型で成虫は5cmほどもあります。
メスのほうが大きくなり、6cmを超えるおっきなタガメも見つかるようです!

水生カメムシとしてだけでなく、日本で見られるカメムシの仲間の中でも一番大きいです。

強力な鎌を持った肉食昆虫

前脚は鎌状となっていて、かなり力は強いです。
水草や、杭の水面近くに逆さまに止まって近くを通りかかる獲物を待ったり、水中で呼吸管を使って酸素を取り込みながら水草に紛れて獲物を待ちます。
そして、通りかかるものがいたら強力な鎌を使って飛びつきます。捕まえることができたら口吻(こうふん)を突き刺して食事を始めるのですが、その様子から「水中のギャング」との呼び声もあります。

タガメの写真
タガメ

タガメの食べ物や餌(エサ)

ドジョウやカエル、小魚などを食べますが、もっと大きな獲物にも飛びつくのでびっくりします。
ヤマカガシやマムシといったヘビを捕食することもありますし、小さなカメを捕食したとの報告もあります。
動いているものならなんでも貪欲に襲いかかります。

絶滅危惧種「タガメ」の対策と保護

環境を知るための「指標昆虫」としての役割

タガメは整った水質の環境でしか生息できません。肉食のタガメは餌となる生き物も豊富でないといけません。

ですから、水質が汚染されずに豊かな生態系が保たれているかどうかの判断をする「指標昆虫」に指定されています。タガメが見ることができるのは豊かな生態系を判断する一つの材料になるのです!

「絶滅危惧種」

タガメは、里山の環境を好むこともあり、田んぼが日本で広がるとともにその生息域を広げていきました。その結果、日本人にとって馴染みの深い身近な生き物だったのです。
しかし、今では急激に数を減らしてしまいました。その原因として考えられているのは「農薬散布」「開発」「外来種」「照明」などの影響が考えられています。

環境省のレッドデータブック2014では「絶滅危惧Ⅱ類(VU)」に指定されています。都道府県別では東京都や神奈川県、他にも石川県や長野県では絶滅したと認定されています。

・農薬の散布

タガメ自体が農薬にかなり弱いことと、その影響で餌(エサ)となる小動物が減少してしまいました。

・開発

田んぼが減ったり放置されることもありますし、用水路などがコンクリートで固められてしまうこともあるので、そういったことも原因として考えられます。

・外来種

ブラックバス、ブルーギル、アメリカザリガニ、ウシガエルなどが日本に入ってきたことによって影響が出ているとも言われています。

・照明

タガメには走光性があり、光に向かって飛んでいきます。道路などの照明が増えたことによって、落下して死亡するケースなどで数を減らしているという話もあります。

種の保存法(2020.01.17)

政府によって、タガメは「特定第2種国内希少野生動植物種」に指定されました。
2020年2月10日よりインターネットや店頭での売買、販売目的の捕獲が禁止されます。

研究目的や、趣味での採集・譲渡は規制の対象外となります。

規制されたことで、採ったから減っていると勘違いする人がいますが、そもそも日本では全国的に見られる珍しくもなんとも無い昆虫でした。上にあげた様な要因から減ってしまい、規制をしないと取り返しがつかなくなると判断されたものであって、根本的には環境の改善しか問題解決の道は残されていません。このまま行くと採集禁止に関わらず数を減らし続けることになるのでしょう。

タガメの写真
写真は飼育されているタガメ

タガメの分布や生息地

分布は日本全国で、北海道から沖縄まで見られる昆虫です。北海道では古い記録が見つからないことから、人為的流入かもしれないとのことです。
生息環境としては、人の手が入って管理されるような里山の水場でよく見られます。水田や用水路。水の流れが強くなく、水深もあまり深くないような池や沼が必要です。

タガメのトリビアやQ&A

毒はあるのか?

毒は持っていない昆虫なので、触っても食べても大丈夫です。タガメが獲物に口を突き刺して食事をするところから、毒を使っていると思われることがあるのでしょう。
毒ではありませんが、タガメは口を突き刺すと消化液を注入します。そしてドロドロ溶かしたものを吸う「体外消化」をいう方法を取って食事をしています!

卵の世話をするオス、そんなオスを誘惑するメス

タガメはメスが産卵した卵をオスが世話をする習性があります。卵は水面より上の杭や植物の茎などにまとめて何十個も産み付けられ、オスはそこに張り付いて卵を守ります。乾かないように水分補給もしてくれます。頑張り屋さんのパパです。
しかし、そんなオスが守っている卵を狙って同属のメスがやってくることがあります。卵を全部つぶしてしまえば、守るべき卵がなくなってオスがフリーになります。メスがオスを獲得するための凄い習性ですね・・・。

天敵と、捕食し合う弱肉強食の関係

タガメは水田などでの食物連鎖の上位にいますが、それでもやはり天敵はいるのです。
鳥類では、サギ・コウノトリなど。他にもブラックバス、ブルーギル、アメリカザリガニ、ウシガエルなどもタガメを捕食します。
しかし、タガメを食べてしまうウシガエルは、オタマジャクシのときにはタガメに狙われる存在でもあります。厳しい弱肉強食が行われていてびっくりしますね。

食べれるの?

日本では昔、佃煮にして食べていたことがあるようです。
中国の方では漢方薬として利用されたり、東南アジアでは近縁種のタイワンタガメなどを揚げ物にして食べる習慣があります。

タイコウチなどとの違い

タイコウチやコオイムシなどが似ている種類になりますが、タガメのほうが大きいので間違えることはないと思います。私はタイコウチを捕まえて「タガメ、タガメ!」と喜んでいたことがありますが・・・。

参考:タイコウチ

他の水生昆虫やコオイムシの仲間についてはこちらから

コオイムシ科まとめ 子負虫図鑑

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この記事を書いた人

村松佳優

昆虫写真家/講師/カメラマン/ムシミルの運営。

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たくさんの人にそれを知ってもらうことで、人も昆虫もよりよい未来を築いていけたらと思ってこのサイト「ムシミル」を運営しています。

カメラマンやイベント運営などに携わりながら、大学の講師やクリエイターの支援活動もし、次代の育成にも力を入れて活動しています!
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